第411話

 三人は連れ立って部屋を出た。

「クラまでは二〇〇メートルくらいね」

 簡単に言う雪柳の横で、安治は表情を曇らせた。

「二〇〇メートル……」

 長いトンネルのように暗くなった通路を見て、呆然と呟く。すべてを綺麗にする必要はないにしろ、最低限の足場を確保しながら進むだけでどれだけ時間がかかるだろう。

 そんな安治を見て雪柳が提案した。

「あたし、先に見てくる。誰もいなければ行く必要もないもの。二人はゆっくり来て」

 言われて気づく。雪柳はヤツハシの影響を受けないのだ。小走りに歩き出したのを「だったら」と慌てて呼び止める。

「だったら、雪柳さんがこの掃除機を持って行ってくれれば……」

「あらやだ、そうね」

 笑って受け取るのを見て、タナトスが口を開いた。

「雪柳、見えない」

「大丈夫よ。人が倒れてたら吸えばいいんでしょ。こうやって――」

 スイッチを入れる。ヤツハシが濃淡の模様を描いている床にノズルを当てる。――吸えない。

 ――うそ。

 安治は呆然とした。その間に歩き出した雪柳を、再度慌てて呼び止める。

「吸えてない!」

「え?」

 故障かと思った安治は掃除機を取り返し、自分でスイッチを入れた。今度は問題なく吸える。

「あれ?」

「どうしたの?」

 もう一度雪柳に持たせてみる。――吸えない。

 タナトスで試しても同じだった。安治以外が使おうとしても、一向にヤツハシを吸い込まない。

「……ええ……」

 思わず絶望の声が漏れる。理屈はわからないが、どうやら掃除ができるのは安治だけのようだ。

 結局、当初の提案通り雪柳が先にクラに様子を見に行き、安治たちは地道に通路を片づけながら進むこととなった。

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