たま子

第57話

「まずだな、食堂を教えてやる。さっきねえさんに言われたからな」

 通路に出たところでたま子が宣言した。

 隣に並んで気づく。たま子はちょうど、姉の澄子と同じくらいの背丈だ。一七四センチくらいだろう。ゆったりした男物を着ているのでわかりづらいが、首や手を見る限りかなり細身らしい。そんなところも似ている。

「姐さん――って誰?」

 敬語を使うべきか少し迷い、駄目なら怒られればいいとため口で返してみる。たま子はかまわない様子だった。歩きながら話す。

「姫だ。おりょう姐さん。言ってただろ」

「ああ、言ってた。――きょうだいなの?」

 似てないな、と思う。顔立ちもそうだが雰囲気が違う。隙なく女性的なおりょうと対照的に、生まれつきの女性らしいたま子には女性的な雰囲気がほとんどない。

 たま子は何を馬鹿な、という顔をした。

「違う、敬称だ。目上の女や娘は姐さんって呼ぶんだ。――はー、そっから説明すんのか……」

「面倒おかけします」

 安治が殊勝に頭を下げると、たま子はにやっとした。

「だいぶ違うな」

「……前の俺と?」

「気にすんな。こっちは勝手に比べちまうけどな。お前が悪いわけじゃない」

「あの、たま子さんは俺が記憶を失った経緯って、知ってる――?」

「訊かないでくれ。実験の内容をチーム外に漏らすわけにいかないんだ。今の状態のお前にべらべらしゃべるわけにはいかない。まあ焦らなくても、そのうち知ることになる」

「うん」

 少しほっとする。思ったより話しやすい。友人だったと聞かされたせいだろうか。

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