第56話

「あの……なんか俺、問題あります?」

 恐る恐る訊く。それほど素行が悪かったのだろうか。しかし首を横に振ったのはみち子だった。

「あなたに問題があるとかじゃないのよ。でも――そうね、あなたそのものが問題なのよね」

「……はあ?」

 ――俺そのものが問題?

「あなたはね、研究所産なのよ」

 諭すように所長が言う。そう言われても、意味がわからない。

「研究所産?」

「ここで作られた生命体ってこと」

 みち子が簡潔に説明する。それが何を意味しているのか、すぐには理解できなかった。ただ、生命体という言い回しが引っかかった。

「生命体……ですか」

 さらに説明しようとしたみち子を所長が止めた。

「今言っても混乱するだけでしょ。もう少し、この環境に慣れてからにしましょう。時間はいくらでもあるんだから焦る必要はないわ。――たま子」

「イエス・マム」

 呼ばれたたま子がふざけた返事をして片手を上げる。

「ついて行って。ここでの生活に必要なことを教えてくれるわ」

「――え」

 行っていいのだろうか。てっきり仕事の話をされると思っていた安治は肩すかしを食らう。もちろん、話が出ないならそのほうがいい。話が出たら、自分にできるのか、できる自信がないと消極的な返答しかできなかったはずだ。

 戸惑いつつ、逃げるように椅子を離れる。

 既にドアの前に移動していたたま子は、

「来い」

 と軍隊の上官のような声を発した。

 それにすごすごと従う安治を見て、戸田山はまた小さく吹き出した。

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