第58話

「あの、たま子さんて何歳?」

「今年二四だな」

「え、年上?」

「若く見えるか?」

 見えない。ちょうどそれくらいだと思った。

「だって、おりょうちゃん、二二って――」

 呆れた顔をされる。

「だからな、敬称だって言ってるだろ。年上か年下かに関係ないんだよ」

「あ、そうなんだ。――じゃあおりょうちゃんって、そんな――ええと、立場ってこと?」

 たま子はわざとらしく頷き、

「そんな立場のお方だ」

 と言った。そしてどこか誇らしげに続ける。

「姫はな、他の姐さんたちとは少し毛色が違うんだ。生まれこそやんごとなき方だが、苦労をされている。他の姐さんたちは蝶よ花よの扱いを受けて当然のごとくここまでいらしたが、姫はいわば成り上がりだ。たおやかで、強い。見た目からしてそうだよな。あんなにか弱く、触れば折れてしまいそうなのに、凛として――」

 何を思い出したのか、うっとりした様子で、ほうっと息を吐く。安治には二人の関係性が推測できない。

「えーと、詳しいんだね」

「ああ、本社に入る前からファンだった」

「入る前?」

「姫たちは皆、マチでも屈指の美姫だ。見目麗しい上に頭脳と身体能力も優れている。そういう娘が選ばれてなるんだ。だからファンは多い。でも本社に入れば余計に、お近づきになるのは元より、お目にかかるのさえ難しい。アイドルだな」

 安治は引け目を覚える。

「そんな人が俺と付き合ってたら、おかしい?」

 訊かれたほうは複雑な表情を浮かべた。否定する気配はない。

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