第61話

 そこにはレインボージンジャーマンとあった。前のを思い出せないが、こんなに長い名前でなかったのは確実だ。

「どうした? 合ってるぞ」

「あの、前のと名前が違うんだけど」

「うん? そりゃそうだろ。前のは姐さんが乗ってったんじゃないのか」

「前のって。だって、同じ軌道に箱がいくつもあるわけないじゃん?」

 あったらぶつかってしまう。

「ああ」

 たま子は安治の疑問を理解したらしく、高めの声を出した。

「なるほどな。ソトのエレベーターは同じ区間の往復だけだもんな。そういうことだろ?」

「え、うん」

「あのな、考えろよ。もしここのエレベーターもそうなら、ソトと同じように番号のボタンがあるんじゃないか?」

「……そうだね」

「でもここのは番号じゃない。そういうことだ」

 ――そういうことと言われても。

 一定区間を往復するだけではないエレベーターというものが想像できない。

「ドチラニ行カレマスカ?」

 痺れを切らしたらしいエレベーターのほうから尋ねてきた。

「大食堂で」

 たま子が答える。

 動き出すのを感じて、安治は壁にもたれかかった。

「……つまり、バスじゃなくてタクシーみたいな感じ?」

 どうすればそのように動けるのか、は考えつかないが。

 たま子は不承不承頷く。

「一応言っとくとだな、お前が思っているようなバスやタクシーはここにはないからな。電車もない」

「え、ないんだ」

「狭いからな。だいたい徒歩圏内で一生が終わる」

「そ、そんなに狭いの?」

「ちなみに徒歩圏内というのは半径一〇キロくらいだ」

「……広くない?」

 都会であればその距離にいくつもの駅がある。

「七つの子どもでもそれくらいは往復できる。乗り物がないからな」

 乗り物がないから歩くしかないのか、歩けるから乗り物がないのか、どっちなのだろう。

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