第60話

「お前、口に気をつけろ。……このマチには政治家とか選挙とかいうものはない」

「あ」

 ――しまった。

 うっかりソトの言葉を使ってしまった。

「まあ、知らないんだからしょうがないけどな。あんまり大っぴらにソトの話をするのは――よくないんだ。肝に銘じておけ」

「うん、おりょうちゃんにも言われた。気をつけたい――けど」

 何がこのマチにあって何がないのかが、まずわからない。

 たま子は同情するように頷く。

「とりあえず、あんまり人と話すな。だからボクがついてるんだが。誰かに話しかけられても、実験のせいで具合が悪いとか言って会話するな。しゃべればぼろが出る」

「うん。でも、あの、ソトの言葉でも知ってはいる――んだね?」

「ああ」

 再び歩き出しながら、調子を戻して語る。

「テレビがあるからな。あれだ、お前は関東の出身でも、関西弁が理解できるだろ?」

「ああ、うん。テレビで聞くからね」

「自分たちで使うことはない。でも知識としては知っている。それと同じだ」

「なるほど」

「マチは小さい。自分たちで娯楽を作るのは難しい。だからテレビとか漫画とか音楽とか、いろいろな娯楽がソトから入ってくるんだ。規制はされてるけど、それでもかなりの量が入ってくる」

「あ――読んでる漫画があるんだけど、続き読めるかな」

「そうだな。発売日よりは遅れるが、いずれは入ってくるだろ」

 エレベーターに着いた。悪戯っぽい表情でたま子が聞いてくる。

「使い方は覚えたか?」

「うーん、多分」

 覚えている通り、まずはノックをする。すぐに扉が開いた。

「で、名前を……」

 乗り込んで電子パネルを見る。

「あれ?」

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