第108話

「そりゃ最初は怖いさ。でも年を重ねるごとにスリルが快感になる。成功したときの達成感は大きいぞ」

「盗んで悪いなあとは思わないわけ?」

「思わないな。だって、向こうだって楽しんでる。ウィンウィンだろ」

「なんでよ。盗まれるほうは楽しくないでしょ」

「じゃあなんでわざわざ自分の畑に地雷を仕掛けるんだよ。スイカの一個や二個くれてやったほうが被害が少ないだろうがよ。本当に嫌ならスイカを作らなきゃいいんだし。つまり向こうも、あわよくば子どもをとっ捕まえて甚振いたぶりたいって腹なんだよ。お互い様だろ」

「…………」

 安治が黙ったのは、それが作り話なのか実話なのかを判断しようとしたためだ。すぐに、考えたところで答えは出ないと諦める。

「ちなみにうちの伯母はそういうのが嫌いでな、ボクが参加したのを知ると、靴べらで叩かれる上に家から出してもらえなくなる。だから隠し通すまでがイベントなんだ」

「やんなきゃいいのに。やらないのが一番安全じゃん」

「何だよ、冷めてるな。それで部屋に籠もってアニメとゲームとエロビデオで一生を終えるつもりか?」

 唐突に軽蔑を含んだ声と眼差しを向けられて黙る。つまらない奴と思われたのだろう。言い返せない。

「ちなみにエロビデオは部屋のアバカスで観られるぞ」

 何を考えているのかいないのか、思いついたように情報を補足する。

「……ご親切にどうも」

 安治は何となく照れてそっぽを向いた。

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