第109話
「ここがクラだ」
前触れなく手で示された。意識を眼前に戻すと、ドアに「蔵」のプレートが貼られた部屋があった。自動ではない引き戸を開けて入る。
中は倉庫のような量販店のような景色だった。通路は広いが、上から下まで積めるだけ積んであるので圧迫感があり狭く感じる。入ってすぐに目に入ったのはトイレットペーパーや洗剤など消耗品の棚と、煎餅や飴などお菓子の棚だった。
「いらっしゃいませ。何かお探しでしょうか」
すっと女性が近づいて来た。長い髪を二つに縛った二十歳くらいの可愛い女の子で、オレンジのシャツと紺色のショートパンツ、黄色いスニーカーを履いている。
反射的にそちらを見た安治は、口を開けたまま固まった。その女の子が有機体でないことを直感したのだ。
「お? 目がいいな」
気づいてたま子が褒める。
「これ――ロボット?」
安治はどんな感情を持てばいいのかわからなかった。その女の子は、昼間の雑踏で擦れ違っても気づかないくらいには人間に似ている。よくここまで精巧に人間を模写できたものだと感動すべきかもしれない。それと同時に、マネキンが動いてしゃべっているような不自然さと不気味さを感じて、目が離せなくなった。
「エンケパロスだ」
たま子が女の子の肩に手を置く。
「エン……それ、名前?」
「いや、名前は房江だ」
「房江……」
見た目より古風だ。
「エンケパロスっていうのはまあ、お前がイメージする通りのアンドロイドだな。機械で作られていて成長はしない。情報のアップロードはできるが。要は人型の体を持ったアバカスだな」
「……すごいね」
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