第107話
「別に山賊っていう職業があるわけじゃないぞ。マチナカの人間が郊外に行くと嫌がられて追い剥ぎに遭ったりするんだ。おそらく普段は山で猟師なんかをしている人たちだと思うんだが」
「地域同士の争いがあるってこと?」
「争いっていうか……閉鎖的なんだよな。それぞれ自分たちのコミュニティ内で平穏に暮らしたい、それ以外のコミュニティとは関わる必要がない……みたいな考え方で、よそ者を極端に嫌ってる。よそ者は同じ人間だと思えない、殺してもいい――くらいに容赦ないぞ。ボクらも子どもの頃は危険な目に遭ったが――」
「え、なんで?」
「なんでとは?」
「交流がないって言ったじゃん。なんで危険な目に遭うわけ?」
問うと、たま子は不穏な顔つきでにやっと笑った。
「風物詩だ」
「は?」
「夏になると農村部にスイカを頂戴しに行くという、子どもたちの恒例行事があってだな」
「それって泥棒……」
「失敗すると酷い目に遭う。向こうも対策を練っているからな、落とし穴やら番犬やら地雷やら、運が悪ければ体の一部くらいは失う。捕まれば半殺しだ」
子ども時代の楽しかった思い出を語る口ぶりのたま子が、安治には理解できない。意識せず非難めいた口調になる。
「なんでそんなことするの?」
「まあ娯楽の一つだな。バンジージャンプのようなものだ」
「楽しそうに思えないけど……」
しかし世の中には大金を払ってまでバンジージャンプをする人がいるのは知っている。
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