第186話

 無気力だ。毎日が充実しているとは言えない。でも、誰でもそんなもんだろう、むしろ自分は恵まれているほうなのだ――とぼんやり思っている。強く不満を感じないから、現状を変えようという活力も生まれない。

 結果、冴えない風に見えるのだ――と思う。琥太朗のように才能もやりたいこともあって、周囲からは羨望の眼差しを向けられるのが当たり前のキラキラした存在には。

「違うよ。いつもより暗い感じするよ。たまちゃんにでも振られた?」

「――暗い?」

 思い当たる節はあった。さっき見た夢だ。内容はよく覚えていない。しかし、それまでの一三年の人生を全否定されるような、とにかく嫌な夢だったような気がする。

 安治は説明するべきか迷い、夢見が悪くて、とだけ呟いた。

「夢? どんな夢見たの?」

「うーん……覚えてない。……でも何か、嫌な夢なんだよ。虚しくなるような」

「虚しいってどんな感じ?」

「どんなって……何か、寂しいって言うか、心許ないって言うか。どうしていいかわかんないような感じ……かな」

 琥太朗は色素の薄い瞳を安治に向けた。

「それ、退屈とどう違うの?」

「え?」

 ――虚しいは退屈?

 そうなのだろうか。

 考える間に話題が変わった。

「ねえ、澄子姉ちゃん元気?」

「うん? ――元気だよ」

「寺子屋に来ないね」

「ああ……」

 安治は適当に頷いた。


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