第283話

 追いかけつつ後ろの女性陣の雑談に耳を傾ける。先に切り出したのはたま子のほうだった。

「最近お前、何やってるんだ?」

「聞くまでもないだろう。この建物の中で、することなどたかが知れている。たいがい那由他なゆたの相手だ」

「あの方はチームを持たないからな。動向がわからん。最近は何を作ってるんだ?」

「全体像は知らん。何やら人が入れる装置を作ったりしているが……」

「人が入れる? 不穏だな。入った人が化け物にでもなるんだろう」

「いや、そんなんじゃない。ただのゲームだと言っていた」

「ふうん、ただの、か。あの方がそんな言い方をするのは却って怖いがな」

「そうか? 買いかぶりすぎだと思うぞ。この間はプリンマシンを作っていたからな」

「何だそれ」

「材料を入れると完成したプリンになって出てくる装置だ。その前はシフォンケーキマシンを作っていて、次はエクレアらしい」

「カフェでも開くつもりなのか?」

「とんでもない。一品ごとにあんなでかい装置が必要なんじゃ、厨房が装置で埋まってしまう。入れたらできる仕組みで保存機能がないから、自販機にもならんしな」

「シフォンケーキはクリームもつくのか?」

「いや、スポンジの部分だけだ。味もプレーンか紅茶のみで、それ以外はうまくいかないらしい。だからクリームへの挑戦という意味で、次はエクレアなんだとか」

 おかしなことに熱中しているドクターがいるようだ。もっとも、おかしいのは全員なのかもしれないが。

「ここの人たちって――楽しそうだよね」

 玄関を抜けたところで軽く立ち止まり、春と夏の中間の気持ち良い風と日差しを顔に感じながら呟く。

 誰に向けて言ったわけでもなかった。

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