第44話

 安治は適当に頷いて話題を切り上げた。

 どうやら部屋番号の割り振り方が、安治の記憶にある方法と違うらしい――ということだけは理解できた。

「広いね」

 とりあえず感想を言う。果てしなく広い。そして何もない。

 窓も照明も見えない。なのになぜか明るい光で満たされている。建物全体がこうなのだろうか。

「ここは居住棟です。ドクターたちがいるのは研究棟です。こちらへ」

 さっさと歩き出すのを見て、思わず声が出た。

「あ」

「はい?」

「え? あの、鍵とかかけないの?」

 おりょうとドアを交互に見る。部屋から出て、ドアノブのないドアを閉めた。それだけで、鍵をかける素振りはなかったように思う。オートロックかもしれないが、そもそも鍵穴や電子キーらしきものも見当たらない。開けるときはどうするのだろう。

 表情を変えずにおりょうが答える。

「ああ……オイコノモスが常駐していますから、大丈夫です。住人と住人が許可した人にしかドアは開きません」

「オイ……?」

「オイコノモス。住居管理システムです」

「あの……変な質問かもしれないけど、ドアってどうやって開けるの?」

「自分の部屋なら、手を当てれば開きますよ」

 反射的にやってみた。ただの壁にしか見えないところに片手を当てる。何の抵抗もなく内側に開いた。

「え?」

 また驚いてしまう。さきほど室内から出るときには外側に開いたはずだ。

「どっちでも開くの?」

 思わず興奮気味に聞くと、おりょうは可笑しそうな顔をした。

「今のは安治さんが押したからです」

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