第45話

 おりょうは開いたドアに軽く指先を当てた。手を引くと、それにくっついてドアが閉まる。そのまま横にスライドさせると、ドアも同じように横に開いた。

「えー」

 一体どういう仕組みなのか。驚きつつ、安治も真似て指先を軽く触れさせ、今度はドアを閉めた。閉めるとまた壁と一体化してしまう。蝶番のようなものは見えないし、壁と平行な敷居のようなものもない。

「どうなってんのこれ」

 ドアの仕組みを不思議がる安治を、おりょうもまた面白そうに見ているのに気づいてはっとする。きっと温水洗浄便座に驚く外国人と同じようなものだ。

「あの、日本じゃなかったから、こんなの」

 照れ隠しに言う。途端、おりょうが表情を硬くした。

「安治さん、ここではソトと呼んでいます」

「え? 何を?」

「安治さんの記憶にある場所のことです。地名では呼びません」

「え?」

 一瞬、言われている意味がわからなかった。少し考えて、日本という呼び方はするなと注意されているのだと気づく。

「あ……そうなんだ。ソトって呼べばいいわけ?」

「ソトの話も、おおっぴらにはしません。タブーではありませんが、あまり興味を持っていると思われるのは危険ですから」

「危険?」

 おりょうは曖昧に微笑んだ。その仕草で本当に『危険』なのだろうと察する。

「ソトってことは、マチは日本の中にあるってこと?」

 思わず訊く。おりょうは軽く首を横に振った。いいえではなく、その質問はするなという仕草のようだ。

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