第46話


「行きましょう」

 それ以上の会話を拒否するように背を向ける。安治は後を追いながら、まずいことを言ってしまったようだと反省する。

「ごめんね、変なこと言って」

「いえ」

 怒っている風ではないが、素っ気ない。警告の意図を感じ取る。

 安治は黙って歩きながら、改めておりょうの後ろ姿を眺めた。波打った髪が動きに合わせて軽く揺れる。

 おりょうはとても姿勢がいい。動き方も無駄がなく洗練されていて、何だか作り物のように思える。ファッションモデルや芸能人を生で見たことはないが、こんな感じだろうか。もしくはアニメかCGだ。

 ――きれいだ。

 手入れの行き届いた髪も肌も。均整の取れた細い身体も。

 室内と廊下で明かりの加減が違うのかもしれない。廊下で見た顔のほうが、より可愛くてセクシーだった。

 安治はおりょうに性別を問えないでいた。もちろん「女性」だということはわかっている。それ以上でもそれ以下でもないのだろう。

 これが画面越しに見かけるだけの相手だったら、可愛いなきれいだなで済んでいたと思う。

 しかし――「恋人」となると。

 気にしなければならないこともある。

 まだ付き合いは短いけれど、おりょうはきっと頭も性格もいい。信頼も尊敬もできる。今現在、恋愛感情があるかと問われれば、あるとは言えない。でも今後恋人としての関係を築くことには、それほどの抵抗は感じていない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る