部屋を出る

第43話

「安治さんの部屋は五二四八七です。番号だけは覚えていてください」

 廊下に出たところでドアを振り返りおりょうが言う。安治は部屋の外に出るなり、一面が無機質な光景なのに驚いた。

 四方のどの壁にも凹凸がない。ドアにはドアノブがなく、壁とドアのデザインに差がない。一旦閉めてしまうと、どこにドアがあるのか見分けづらいほどだ。

 安治はドアを上から下まで眺めた。部屋番号や住人の氏名表記を探したのだ。ない。

 左右を見渡す。廊下は恐ろしく長く、果てが見えない。おそらく壁に沿って無数のドアと部屋があるのだろうが、隣のドアがどこにあるのか肉眼ではわからなかった。

 物音もしない。うっすらと耳鳴りのようなホワイトノイズのような音が間断なく聞こえるだけだ。

 これではどこに部屋があって、誰の部屋だかわからないのでは……と不安になる。

「――五二四八七?」

 数秒遅れてようやく咀嚼する。部屋数にしては桁が多い。

「それって、五番目の建物の、えー……二四階の八七号室ってこと?」

 そんなわけはないよな、と思いつつ、他に解釈の仕方が思いつかなかった。

 おりょうもまた、それを聞いてぽかんとする。

「はい?」

「いや、だって……じゃあ、どういう意味?」

「意味……ですか?」

 首を傾げている。何だか通じていない。

「えーとじゃあ、隣は五二四八八号室?」

 これにも首を傾げるおりょう。

「さあ……」

 知らないというよりも、今まで興味を持ったことがなかったという雰囲気だ。

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