第267話

「ああ、はい。個人の登録名と被らないように、あえておかしな名前にしているんです」「登録名? って?」

 おりょうは一瞬の半分ほど、きょとんとした。何を訊かれたのかわからなかったのだろう。即座に頭を回転させて答える。

「登録名というのは本社に登録されている名前です。ソトでいう戸籍のようなものでしょうか」

「ああ、ふーん。……ん? それって本社に勤める人だけ? それともマチ中の?」

 おりょうはまた一瞬の半分ほど黙った。そこから説明しないといけないのかと思ったのだろう。

「およそマチ中の人が登録されています。でもそれはファミリーが勝手に情報を集めているだけなので、ファミリーに入る人は、入る際に改めて任意の登録名をつけます」

「は? 任意なの?」

 安治は驚き、おりょうはきょとんとした。

「はい、任意ですが」

「本名を登録するんじゃなくて?」

「本名……が登録名になります」

「ん? そうだよね。……ん?」

 何だかわからない。

「言い直しますね。登録名が本名になります」

「……うん?」

「おそらく安治さんがおっしゃってる本名というのは、日本政府に登録されている戸籍に載っている名前のことですよね」

「政府? ああ、役所のこと? ……あそっか、役所がないんだから、戸籍もない……だから、つまり、本名っていうのはない――ってこと?」

「その解釈で合っていると思います。ですからマチの人は一生のうちで何度も名前を変えたり、複数の名前を持っていることが珍しくありません」

「なるほどね。だからファミリーに入る人は名前を一つに決めるんだ?」

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