おりょうはすず香

第266話

 翌朝、朝食の席で言われた。

「昨日からマチ中に冷蔵庫が現れているんです。そうそう出遭うことはないと思いますが、もし見かけたら近づかないようにしてください」

 温かいコンソメスープをゆっくり飲んでから、驚かさないようにさり気なく切り出す。

「実は昨日、遭ったんだけど……」

「どちらでですか?」

 予想していたのかいないのか、驚いた風もなく訊き返してくる。

「エレベーターの中」

 この答えにはさすがにぎょっとしたようだ。一瞬動きが止まる。

「……開けたりしませんでしたか?」

「うん。ヤギだったから、開けらんない」

 軽くおどけたつもりだったが、おりょうの表情は変わらない。

「開けないでくださいね。……でも……そうですか」

「何?」

「いえ。――我々本社組は住人を守るだけですが、研究所には冷蔵庫を研究しているチームもあります。何という名前のエレベーターだったか覚えていますか?」

「あ――えーと」

 ――何だったっけ。

 ヤギだと最初に名前を読み上げる必要がなく鼻でタッチするだけなので、よく見なかった。ただ、やけに短くて簡単な名前だなと思った気がする。

「ブルースカイ……じゃなくて……ブルーレット……何かそんなような」

「スカーレットスカイですか?」

「あ。それだ」

 思い出したらそれほど短くなかった。おりょうは聞くのと同時に端末をいじり出す。研究チームに報告するのだろう。

「あの……素朴な疑問なんだけど」

「はい」

「なんで、みんなそんな変な名前なの? エレベーターっぽくないと言うか……」

 ――エレベーターっぽい名前ってのもないか。

 言いながら自分で突っ込みを入れる。

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