第65話

 たま子が慌てて戻ってきた。代わりに答える。

「ああ、耳鳴りと頭痛がひどくてあんまり聞こえないらしいんだ。しばらくそっとしておいてくれ」

「そっか、大変だな」

「ああ、またな」

 露骨におざなりな対応で切り上げる。安治は腕を引かれるままその場を去った。

「――今の人は?」

「ハトジロウとケンユウ。敷地内のカラオケ屋で働いてる。――いや、ボウリング場に移ったんだったかな?」

「カラオケ屋? 敷地内にあるの?」

「何でもあるぞ。研究所で働く人はだいたい敷地の外に出たがらないからな。映画館やプールもある」

「えー……。それって俺も」

 利用できるのだろうか。人間でなくとも。

 たま子は簡単に頷いた。

「ああ、そのうち連れてってやる。まずは仕事を覚えてからだけどな」

「うっ」

「何だよ」

 比喩ではなく、胸が痛くなった。仕事――自分にできるのだろうか。

「腹は減ってるか?」

 唐突に聞かれる。気づけば目の前に料理の並ぶカウンターがあった。ビュッフェ形式のようだ。

「ううん、さっき食べたとこだから」

「じゃあコーヒーだけでいいか?」

 指差した先に飲み物専用のカウンターがあった。ファミリーレストランのドリンクバーを思わせる。

「うん」

 頷きつつ、どうやって会計するのだろうと考える。スマホ同様、財布も持っていない。

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