第184話

「ちょうどよかった。これ、持ってけって」

 風呂敷包みを渡される。

「おばさんから? 何?」

枇杷びわ八朔はっさくだよ。潤ちゃん、具合悪いんでしょ」

「ああ……ありがと」

 マチは狭いので、近所の話は何でもすぐに伝わる。潤也は前日、池の鯉を捕まえようとして水に入り、風邪を引いて熱を出しただけなのだが、心配してくれたらしい。

「ところで、お前はなんで今日休みだったんだ?」

 明るい茶色の頭に軽く手を置きながら訊く。琥太朗が寺子屋を休むのは珍しくないので心配はしていない。しかしこうも元気そうな姿を見ると理由が気になる。

 琥太朗はえへ、と可愛い振りで笑った。

「昨日、研究に熱中してて寝坊しちゃったんだよ。起きたら昼の二時だった」

「二時って……誰も起こしてくれないわけ?」

 安治の家なら、朝の六時半には強制的に起こされる。

「起こされたよ。お隣から美味しい枇杷もらったから食えって」

「研究って? プロジェクトの?」

 琥太朗も安治たちと同じプロジェクトだった。

 プロジェクトの旗振り役は建前上、最年長のたま子だ。しかし実質のブレインは琥太朗だと言って差し支えない。琥太朗はエンジニアである父親の影響で、寺子屋に上がる前から早くもロボットを開発していたらしい。

 マチでは珍しくない境遇だが、その頭脳はファミリーからも有望視されていると専らの噂だ。容姿にも恵まれているため、将来は侍童だろうと期待されている。

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