第18話

「すいません、なんか記憶が飛んでるみたいで。……俺、なんでここにいるんですかね」

 この問いに女性は少し不思議そうにした。

「なんでって……ご自分の部屋じゃありませんか」

「……は?」

 思わず見回す。マンションのような広くてきれいな部屋。自分のアパートでは決してない。

「……いや、ここ、俺の部屋じゃないんですけど」

 女性はしばらく黙って安治を見つめた。不意に立ち上がるとリビングに行き、スマホを取り出して操作を始める。

 ――スマホ。

 安治も自分のスマホがどこにあるのか気になった。枕元を見て、ベッド脇のテーブルを見る。ない。

 ベッドを降りる。男物の上着やバッグのかかったハンガーラックに歩み寄るも、どれも自分のものではないのに気づいて触るのを躊躇う。

 とりあえず、動いても身体はどこも痛くない。包帯などが巻かれている感触もない。なのに記憶が飛んでいるということは……。

 後頭部を撫でる。こぶでもできているのではと思ったのだが、特に変わったところはなかった。

「安治さん」

 呼ばれてびくっとする。

「え――はい」

「じきに皆さんがいらっしゃいます。こちらに座っててください」

「み、皆さん?」

 一体誰が来るのか。内心怯えつつも、どうすることもできない。言われるままソファに移動する。

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