第217話

「計画が狂ったが……まあいい、もうお前たちで最後だからな」

 口調と顔つきが荒っぽいものに変わっている。

「何をやってるんだ?」

 こんなときだというのに、冷静な問いを放ったのはたま子だ。とはいえ落ち着いているわけではない。表情こそ普段通りだが、安治の手首を掴む手が震えている。恐怖か怒りのためなのかはわからない。

 男は投げ遣りに笑った。

「何って、見ての通りだよ。ちゃんとったつもりだったんだがな、仕留め損ねたらしい」

「他の人たちは?」

 答える代わりに、男は顎で後ろの雑木林を指した。斜面になっているので見えないが、皆そこに打ち捨てられているのだろう。

 ――全員?

 最後に手を振っていた女の子の姿が思い出されて、膝が崩れそうになった。

「なんでだ?」

 怒りを抑えた声で再度たま子が訊く。

 男は馬鹿にした様子で鼻を鳴らした。

「なんでって? お前たちが生き延びたからだよ。おとなしく焼け死んでりゃいいのに、あそこを出たからって、どこに行くつもりなんだよ。受け入れ先なんてあるわけねえだろ」

 銃口を突きつけられたままの琥太朗が訊く。

「お姐ちゃん、ファミリーの人じゃないの?」

 男は嫌そうに琥太朗を睨んだ。

「あのな、その呼び方やめろ。俺はオネエじゃない」

「運転手さんは? みんなそう?」

「いや。あいつらも――」

 どこか得意げに再び雑木林を指す。

「じゃあ、お兄さんだけってこと?」

 確認するように琥太朗が訊く。その背後に大きなハエのような影が飛びかっているのに、安治は気がついた。

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