第82話

 どれが龍だろう……と探す目の前を、ヒツジのようにもこもこしたイワシ――おそらく――や、ブタの顔をした鯛――おそらく――や、羽根の生えたウナギなどが通り過ぎて行く。体の向きはばらばらだ。安治と同じ向きもいれば背や腹を向けたものもいる。

 クジャクめいた色合いのペンギン、体の周りに火花を散らした電気イカ、ちょろちょろと青い炎だか煙だかを吹き出しているエビなどもいた。

 こんなのを作る仕事って楽しそう――と気楽に思う。

「――ん」

 魚ではない黄色いものに目を引かれた。ドアのある壁をぴょこんぴょこんと跳ねてくる――大きさが五〇センチはありそうな巨大なカエルだ。

 そのまま行くと開いたままのドアに

 どうしたものかと思う目の前を、さらに色々な生き物が通り過ぎて行く。

 トビウオ、タコ、エイ、マンボウ、人間の脚の生えたマグロ。マグロは海岸で追いかけっこをする恋人たちのように軽やかな足取りだった。

 スズメやハムスターもいた。ハムスターは遠目には豆大福に見えた。なぜ豆大福が……? と思っているうちに近づいてきて、バタ足で泳ぐハムスターに変わった。

 続いてアスパラガスが見えた。きっとあれも近づけば正体がわかるんだろう、きっと緑色のチンアナゴか何かだ――と予想する。しかし直前まで来ても、通り過ぎても、やっぱりアスパラガスにしか見えなかった。

 煮干しもいた。体をくねらせて泳いではいるが、どう見ても干された後の状態だ。その状態で水に浸かったら出し殻になってしまうのでは――と心配になる。

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