白い夢2

第332話

 白い世界にいた。

「……あれ?」

 一瞬か、それともしばらくか、ぼんやりしたあとにはっと我に返る。

 いつからここにいるんだろう。どうやって来たのか。

 見渡す限り真っ白で、何も見えない。

 ――ここは。

 覚えがあった。以前にも来たことがある。

「知り合いのおじさん」

 思い出すと同時に声に出しながら後ろを振り返る。はたしてそこに、アンティーク調の赤い革張りの椅子に腰かけた、若いような年配なような柔和な雰囲気の紳士が腰を下ろしていた。

「ここは現実です」

 おじさんは言った。

「現実……? 夢ですよね」

 何もない世界を見回しながら返す。

「夢もあなたが実際に見ているものだとしたら、現実の一部だということになりませんか?」

「ああ、現実の一部って言い方なら……そうですね」

 自分が見るものは、現実に存在している自分が認識しているから見えるわけだ。夢も見た以上は、自分にとっては現実と言えるのかもしれない。

 でも――。

 他人にとって、すなわち客観的には現実ではないでしょう、と言おうとした。

「あなたは他の誰かになることはできません」

 にこやかな表情のままゆったりした口調で言われる。

「あなたが感じるものはすべて主観である。そうは言えませんか?」

「ああ……客観的な現実なんてものはないと」

 安治は頷きながら、口に出す前のことを否定するのはやめてほしいな――と思った。

「ここが現実なら、つまらないですね」

「そうですか? 落ち着きませんか?」

 言われると確かに落ち着く気がした。空気の動きがないので気づかなかったけれど、ちょうど心地よい気温だ。布団の中のような。

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