第331話

 立ち上がった安治を見て、男は眉根を寄せた。不機嫌に呟く。

「お前、でかいな」

「はあ、まあ……」

 言われて気がつく。男は一六五センチくらいだろうか。一三歳の安治より確実に背が低い。それが面白くないのかもしれない。

 同じく長身なたま子は意識してか、男とは距離を取って安治の横に来た。支える振りで安治の腰に手を回す。と、再び軽く咳き込んだ。

「大丈夫?」

「ああ、少しいがらっぽくてな。……空気が汚いから」

「そっか……」

 安治は自分だけ何ともないのを申し訳なく感じた。ふとたま子と見つめ合う。

 その光景をどう取ったのか、男は小馬鹿にするように鼻を鳴らした。何も言わず踵を返して歩き出す。

 その後を追いながら、二人は小声で言葉をを交わす。

「……ファミリーの人?」

「いや。……ソトの人だ」

「え?」

「……説明は後でする。とにかくマチのことは知っている」

 関係者ではあるということか。

「たまちゃん、琥太朗は?」

「無事だ。……紫外線の影響が大きくて、先に治療を受けている」

 そう言うたま子に安堵の雰囲気はない。よくわからない相手に琥太朗を預けたのが気がかりなのだろう。

「……ありがと、助けに来てくれて」

「当然だ。……ボクが探せば早いしな」

「ああ、それって」

 ダイモンって奴で居場所がわかるから? と訊く前にたま子に睨まれた。会話に耳をそばだてているらしい男が少し遅れて振り返る。

 たま子は気づかない振りで、わざと大きめに言った。

「人生の半分を一緒に過ごしてるんだ。お前の思考パターンくらい把握している」

「そりゃどうも、姐さん」

 ――――。

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