第330話
今は別の可能性が頭に浮かんでいた。ひょっとしたら自分は――異常なほど怪我の治りが早い体質なのでは?
そう仮定すると新たな疑問がわく。
――いつから?
小さい頃、誤ってガラス片を踏み、足の裏に大怪我を負ったのを覚えている。そのときはしばらく包帯でぐるぐる巻きにされていたはずだ。もっと最近だと――前回のマラソン大会では、額にできた痣が消えるのに一週間ほどかかった。毎日鏡で見るし、他人からも指摘されたので覚えている。あれはまだ半年前のことだ。
そうだ、その頃は怪我の治りが早いだなんて少しも感じなかった。
「痛いとこないか? 立ち上がれるか?」
気遣いの問いかけに質問で返す。
「たまちゃん――俺の顔、どうなってる?」
「顔? 鼻の頭を擦り剥いてるな」
言ってたま子はコホコホと咳をした。歯痒そうに喉を擦る。
「擦り剥いてるってどれくらい?」
「どれくらいって、大したことないぞ。ちょっと皮がめくれてるくらいだ」
「あとは? ――肌は?」
「ああ、ちょっと日焼けしてるな。でもボクらよりはずっとましだ。いつもとほとんど変わらん」
聞いていた後ろの男性が「ふうん」と息で唸った。
「なるほどね」
何がなるほどなのだろう。気にはなったが、冷たい眼差しに威圧感を覚えて聞き返せない。
たま子が居心地悪そうに半分だけ後ろを振り返る。軽く肩を竦めて早口に言う。
「自力で歩けるんなら、もう行きたいんだが」
「うん――歩けるよ」
いつまでも座り込んでいるわけにもいかない。念のためゆっくり立ち上がる。やはり痛みはどこにもなかった。
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