第417話
ドォン、ドォン、ドォン、ドォン、ドォン、ドォン、ドォン、ドォン……。
やはり太鼓の音に思える。その音は徐々に大きくなってきていた。
「早いな、来たぞ」
やや緊張した様子でたま子が言う。その視線は水が来たほうに向けられていた。暗く霞んで見えづらいそちらに注目すると、奥に一際黒いものが蠢いているのがわかった。
「――え?」
物体の大きさを把握して背筋が寒くなる。通路のほぼ全体を占めていないか。
「お、大きくない? 前見たのと違うんだけど」
「ああ、お前が前に見たサクヤ号は小さいからな」
答えながらたま子は、壁際に立って浮かんでいる安治の隣に並んだ。反対隣にタナトスが並び、遅れてきた雪柳もその列に加わる。
ドォン、ドォン、ドォン、ドォン、ドォン、ドォン、ドォン、ドォン……。
遠くに龍の顔が確認できた。厳かな漆黒の鼻先とその上に乗った二つの緑色の瞳――それだけで、身体がきゅっと引き締まるような緊張を覚えた。
直視してはいけない。本能がそう訴えかける。神様を直視してはいけない――。
一方で好奇心は否応なしに膨れ上がった。
今を逃したら、二度と拝めない――!
ミカヅチ号が近づくにつれ音も大きくなる。その振動で露出している肌がびりびりと震えた。痛いほどではないものの、まるで感電しているようだ。
「これ、何の音なの?」
「多分、ミカヅチ号が発している音波だ。この個体の特性だな」
視界の端がぐらついたように思えた。見れば、壁にへばりついていたヤツハシが一斉に振動で揺り落とされようとしている。
「あ……」
指を差す安治にたま子が頷く。
「こういうことか」
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