第418話

 ドォン、ドォン、ドォン、ドォン、ドォン、ドォン、ドォン、ドォン……。

 更に音が近づく。うるさいよりも恐怖を覚えて自然と耳を塞いでいた。子どもが雷に怯えるのと同じだ。期待なのか恐怖なのか振動のせいなのか、身体の奥から震えが上がる。

 タナトスが安治の腕を掴んだ。やはり怖いのだろうと思って見ると、目には怯え以上に好奇心が浮かんでいた。その向こうで雪柳は、組んだ両手を口元に当てて目をきらきらさせている。

「……ッ」

 鼻先が眼前まで来た瞬間、たま子が息を飲むのがわかった。

 安治の身内にも滅多に感じることのない興奮混じりの感動がわき上がる。腰の辺りから背筋を上ってくるぞくぞくした感じ。

 通路をぎりぎり通れる大きさの黒龍が、一列に並ぶ四人の顔すれすれに通り過ぎていく。四人はコンマ一秒を惜しむように、言葉もなく見守った。

 端正な鼻先から伸びる長い髭が宙を泳ぎ、猛禽類を思わせる丸い瞳が一瞬だけ野次馬に向けられる。安治はその視線を受け止めることができず、反射的に目を逸らした。

 やがて特徴的な角が眼前に来る。木の根のように枝分かれした角は、サクヤ号に比べて大きく長い。

 その枝分かれした角の間で、小さな稲光が絶えずパチパチと弾けている。クリスマスツリーの電飾のようだ。

 音波で振動する身体は、その稲光に撃たれて感電しているような錯覚に陥る。

 頭に続いて太い胴体が視界を埋めた。石垣のような、一枚一枚に存在感のある大きな鱗。どっしりと重みを感じさせる漆黒の鱗が艶々と光を反射させる様は、金属製の装甲にも見えた。

 しかし確かに息づいていると感じさせるのは、その巨体が緩やかに上下に動いているためだろう。蛇が這うような滑らかな動き。

 鋭い爪の生えた松の木のような前足が四人の下半身を掠めてひやっとする。

 すぐに、背中に生えた青みがかった白銀のたてがみに目を奪われた。柔らかく靡くそれは体の動きに合わせて波打つように天井を擦る。

 やがて後ろ足が通り過ぎ、半透明のひれのついた長い尾が余韻のごとく後を引く。

 その間中ずっと雨上がりの森のような、濡れた土と樹木を連想させる匂いが漂っていた。

 ドォン、ドォン、ドォン、ドォン、ドォン、ドォン、ドォン、ドォン……。

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