北条さん
第168話
「そりゃ、漫画は集めてたけど」
図書室に移動した安治とタナトスは、周りに人気のない閲覧コーナーで会話を続けた。手元にはそれぞれ漫画と児童文学がある。
「自分で買ったから集まったわけで、向こうから勝手に寄ってきたわけじゃないからね」
「プロセスは関係ない。ほしいと思う。結果、手に入る。それだけ」
「関係ないことないでしょ。自分で買ったら手に入るのは当然だよ。寄ってくるっていうのは相手の意志があってでしょ? 漫画に意志なんてないじゃん」
「漫画に意志がないと、どうやって確認する?」
「ええ? 確認はできないよ。……でも、あるはずがない。漫画が人に寄ってくるんじゃなくて、人が選んでるんだよ、一方的に」
「では安治は、みんなが言っていることが真理ではないと判断する?」
「その、『みんな』って誰なわけ? 前の教育係が言ってただけとかじゃなくて?」
安治はふと、自分が小学生の子を持つ母親になった気がした。「みんな持ってるから買って」とゲーム機を懇願する子どもに「みんなって誰よ」と突っ込む母親。よくよく聞いてみれば「みんな」とは友達の二、三人に過ぎなかった……。
――でも子どもにとっては二、三人の友達が社会のほとんどだもんなあ。
そんなことを思う。
「所長やソポスチームのみんな。あと北条さん」
「北条さん? 誰?」
「うう……タナトスの……お父さんみたいな人」
タナトスは微妙に困ったような顔をした。
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