第72話
扉が閉まり切るより先に安治は内側のパネルを見た。名前は――イエローエレファント。 なんでそんな名前なのだろうと思いつつ呼びかける。
「ハイ」
今まで三基に乗ったが声はどれも一緒だ。女性のような子どものような合成音。ただほんの少し、しゃべり方が違う。一基めの落ち着いた感じと比べて、今度のは子どもっぽい。語尾が短く跳ねる感じだ。
「えーと、部屋に戻りたいんで、部屋番号、えー、五二四八七……」
「了解デス」
にお願いします、まで言う前に応答された。間髪入れずに動き出す。せっかちで威勢の良い女の子のイメージが頭の中に浮かぶ。
とりあえず部屋番号を忘れなくてよかった――ほっとしつつ、背中を壁に預ける。
――たま子さん。二四歳。
直前のできごとが復習のように思い出される。
――彼氏いるのかな。
余計なことを思う。いてもいなくても自分には関係ないのに。
実のところ気になった。たま子は美人ではない。でもそれはきれいにしていないからで、身だしなみを整えればそれなりにはなるだろう。スタイルも多分、悪くない。背が高い分、相手が限定されるかもしれないけれど。
話しやすかった。きっと雰囲気が女性的すぎないからだ。それは反面、異性から意識されにくいということにもならないか。
――異性?
そもそも、たま子の恋愛対象が男性だという前提で考えてしまっている。たま子は自分をボクと呼んでいた。自認する性別はどっちなんだろう。
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