ミッション

第71話

 食堂を出たところでちょっとしたミッションを与えられた。一人で自分の部屋に戻り、端末を探して、今度は図書室に行く――というものだ。

 エレベーターの前でたま子は、幼子に初めてのお使いをさせるがごとく注意事項を伝えた。

「途中、誰かに話しかけられても答えるなよ。知り合いらしくても、体調の悪い振りでもして逃げろ」

「うん」

「途中、変なものを見つけたからって、ついて行くんじゃないぞ。迷子になるからな」

「うん」

「わからなくなったら、とりあえずエレベーターに乗れ」

「うん」

「知らない人は信用するんじゃないぞ。親切そうに見えても腹の内はわからん。お前はここのことを何も知らないんだって自覚しろ」

「うん、気をつける」

「どうにもならないときはその場で待ってろ。そのうちには助けが行くから」

「うん」

「まとめだ。話さない、答えない、ついて行かない、信用しない、動き回らない――これを五戒として心せよ」

 ――ごかい?

「……うん」

 小学校の避難訓練じゃないんだから、と思いつつ頷く。頭文字をつなげても――別に語呂は良くない。

 果たして冗談なのか本気なのかは、たま子の無表情からは読み取れない。実は母性が強くて心配性なのだろうか? そうでなければ、本当に危険なのだろう。

「ボクは図書室で待ってる。端末の使い方がわかるなら連絡をしてくれてもいい」

「わかった」

 安治がエレベーターに乗り込むのを、たま子は片手を上げて見送った。やはり無表情だ。心配しているのか面白がっているのか、これでしばらくは一人になれると清々しているのか、さっぱりわからない。

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