第70話
たま子は可笑しそうに笑った。
「そんなわけないだろ。さすがにこの研究所でも成人の赤ん坊なんて――」
言いかけて止まる。
「――いるな」
「ほら」
「いや、でも、あいつは――お前とは違う。お前は旧式だから」
「きゅ、旧式?」
「旧式はアナログな成長しかできないんだ。ボクたちと同じで」
冗談を言ったつもりか、たま子が笑う。安治には面白くもない。
――アナログ。
「じゃあ、デジタルな成長をする新型のクローンがいるってこと?」
たま子は笑いを引っ込めた。
「お前――けっこう鋭いな」
「そ、そう? 普通じゃない?」
褒められているようで馬鹿にされている。
たま子は何もない空間を見ながら「あいつは――」と言いかけた。
「あいつ?」
訊かれて、慌てて口を押さえる。
「いや、何でもない。――いずれはお前にも関係あるかもしれないが、今ボクが話すことじゃなかった。忘れてくれ」
そんな言われ方をしては余計に気になる。新型のクローンとやらと接する機会が今後あるということか。
「行こう。敷地内は広い。案内するだけで日が暮れちまう」
たま子は問答を拒否するように宣言して立ち上がった。二人ともカップはすでに空だ。仕方なく従う。
カップを返しに行った際、安治はカウンターの内側に先ほど見た腕六本の女性がいるのに気がついた。女性は六本の腕を器用に使い、食器を洗うのと布巾で拭くのと積み重ねて収納するのとを同時にこなしていた。
その手際の良さに思わず溜め息が出る。
気づいた女性は顔を上げ、安治を見てにこっと笑ってくれた。
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