第315話

 誰が持つかとなったとき、たま子は最初に除外された。ならば琥太朗か自分――と思いきや、琥太朗もまた遠ざける素振りをした。

「何かそれ、嫌な感じ」

 口達者な琥太朗がそうとしか表現できない、妙な気配があるらしい。

「昨日はそんなこと言ってなかったじゃん?」と訊いても、「うん……」とふるわない。

 唯一何も感じない安治が持つことになったは当然と言えよう。

 三人が出発したのは、まだ朝も早い時刻だった。山中とあって太陽の姿も拝めず薄暗い中、念には念を入れて、車道ではなく山肌の獣道のようなところを下っていくことにした。

 山を降りれば街がある。それは三人とも確信している。遠くても歩けばいいだけで、歩くことには自信がある。

 一方で不安はいろいろと浮かんだ。

「……ソトの人に見られたら、変に思われないかな」

 最後尾を行く安治が呟き、前にいたたま子が軽く振り返る。

「ボクたちの見た目がってことか?」

「うん、まあ、それ以外も……。似てるとは思うけど、まるっきり同じじゃないかもしれないよね」

「そうだな。実際に会ってみなければわからない話だ」

「変に思われたらどうなるんだろ。黒服組みたいなのが来るのかな」

「警察ってやつだな」

「もし会ったら、逃げたほうがいいと思う?」

「わからん。だがこっちじゃ基本的に殺しは御法度らしい。会ったところで殺されはしないだろ」

「でもさ、いろいろ訊かれるよね、きっと。マチのことって話さないほうが良いよね?」

「そうだな。話さないほうが無難だろうな」

 たま子は話したくて話しているというより、安治の不安を感じ取って返事をしているだけのようだった。

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