第314話

「あ、そうだよ」

 思わず言葉尻に乗っかる。

「敵も来るかもだけど、味方も来るかも……」

「いつ?」

 さらに小馬鹿にした態度で琥太朗に問われる。

「不意打ちを計画的に実行した敵と、防戦一方だった味方、どっちのほうが早く動けると思う?」

「…………」

 黙る安治にかまわず、たま子が落ち着いた声で答える。

「被害が出たのはこっちだけだろうからな。今頃ファミリーはてんやわんやだ。たとえボクらのことに気づいていたとして、少人数の救出は後回しにされるだろうな」

 その通りだ。他の車がどこに行ったのかは知らないが、生存者は大勢いるはず。そちらの対応で手一杯に違いない。

 琥太朗はこくこくと頷いてから、手をぱんと叩き合わせて、切り替えるように明るい声を出した。

「とにかくだよ。ずっとここにいるのは危険だし、ひとまず山を下りてみない? 人が住んでる街に行ったほうが助かる可能性あると思うんだ」

 他の選択肢は思い浮かばない。名案と言うより、消去法的にそれしかないだろう。年長の二人は真剣な表情で頷いた。

 なるべく汚れていない長袖の服を選んで着替え、食料や救急セットなどのめぼしい物資を適当なリュックサックに詰めて、それぞれ背負う。

 スマホは電源を入れたまま、車からは離れた道路脇に捨てていくことにした。万が一車に戻って来た際に、スマホを確認に来た敵と鉢合わせしないようにだ。

 財布は安治が預かることになった。これには多少の経緯がある。

 財布を見つけた当初から、たま子はそれを臭いものでも見るような態度を取っていた。理由を訊いても「わかるだろ」としか答えず、そう言われても安治には思い当たる節がない。財布もお金も、直接触ったのは人生で初めてだ。

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