第313話

「え、じゃあもう遅くない? 一晩経ってるんだよ。もう相手にはわかってるんじゃない?」

「かもね。そしたら今さら壊しても遅いか。どうにか使えないかと思って躊躇っちゃったんだよな」

「壊したところで、連絡が途絶えた最後の場所は相手にわかっているのかもしれん。探しに来るならこの辺に来るだろ。そいつが壊れてても壊れてなくても」

 たま子の発言に安治は背筋が寒くなる。

「じゃ、じゃあ、逃げないと」

 思わず出た言葉を予想していたように琥太朗が応じる。

「どこに?」

「…………」

「ここが結構な山の中だってわかってるよね。俺らの体力でむやみに歩き回って助かる可能性と、ここにやって来た敵と対峙して生き延びる可能性と、どっちのほうが高いと思う? 俺は大差ないと思うよ」

「…………」

 到底一一歳とは思えない冷静さに安治は圧倒される。

 琥太朗には二面性がある。実年齢の何倍も経験を積んでいるような大人びた面と、見た目通りの可愛い子どもを装う面と。

 今は猫を被る気がないらしく素顔だ。安治は二つ年下で身長は四〇センチも低い『弟』に、見下されていると感じた。

 腹が立つよりも、こんなときに頼りにならない自分を呪う。自分が二人を守らなければならないのに……。

 考える素振りのたま子が、顎に手を当てたまま言った。

「こっちから向かうとして、マチがどの方向かもわからんしな。自力で味方と合流するのは不可能だと思ったほうがいいかもしれん。それより殺された運転手らが、やはり発信装置のようなものは装備していただろうから、いずれ探しに来るんじゃないか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る