第50話

「それって、俺も?」

「はい」

「――発信器でもついてる?」

 自分の身体を見下ろす。気づかぬうちに服にでも仕込まれているのだろうか。良い気分はしない。

「いえ。建物自体が目や耳だと思ってください。通路にもドアにもセンサーがあって逐一監視されているイメージです。建物自体が人を記憶しているんです」

「えー。それって、部屋の中は関係ないよね? 通路とか、共有スペースだけだよね?」

「表向きはそういうことになっています」

 おりょうは意味ありげな笑みを浮かべた。安治は笑うどころではない。

「じゃあ、今も見られてるってこと?」

「お気になさらなくて大丈夫ですよ。人が見ているわけではありません。システムが管理のために働いているだけです」

「録画とかしてない?」

「していても、人が見ることはまずありませんから。問題でも起きない限り」

「それって、見ようと思えば見られるってことでしょ? それだけで嫌なんだけど」

 思わず渋い顔になる。エレベーターで二人きりだからと気を緩ませることさえできないではないか。

 おりょうはいたずらっぽく笑った。

「すぐに慣れますよ」

 言うなり両手を回して安治の首を引き寄せた。反応する余裕を与えず唇を重ねる。

 数秒後、シルバーホースの、

「目的地ニ到着シマシタ」

 の声に安治は慌てて身体を離した。

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