研究室

第51話

「ここは研究所ですから」

 エレベーターを降りながら、おりょうはまったくのポーカーフェイスで言った。今し方の行動が嘘のようだ。

「……え?」

 安治のほうは顔が赤い。

「少し特殊なんです。隣の本社ではここまで監視されていませんし、マチなかはもっと――多分、安治さんが想像されるのに近い暮らしぶりだと思います」

「あ、そう……」

 深呼吸をして気持ちを整える。病院の匂いがした。身体の細胞が殺菌される気がする。

 出た場所は先ほどと同じような通路だった。それでもどことなく人の気配を感じさせる。何が違うのだろうと見ると、ところどころにあるドアに小さな窓がついていた。その上には部屋番号らしきプレートも貼ってある。病院のような、学校のような光景だ。

「こちらです」

 先に立つおりょうを追いながら、ふと冗談めかした言葉が出た。

「おりょうちゃんて、けっこう大胆?」

 振り向いたおりょうはきょとんとしている。

「今のでですか?」

「…………」

 ――自分のほうが奥手なんだろうか。

 二人が目的のドアに辿り着く前に、そのドアが開いて内側から男女が出てきた。片方は白衣を着て眼鏡をかけた男性で、片方はゆったりした柄物のシャツにワークパンツ姿の女性だ。男女はおりょうを視界に入れると、

「おお」

 と嬉しそうに声を上げた。

「姫、今日もお美しい」

 と低い声を出したのは女性のほうだった。ローヒールを履いたおりょうより背が高い。化粧っ気はなく、頭はぼさぼさのボブヘアで、いたって地味な雰囲気だ。

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