第49話

 内側の壁には大きめの電子パネルがはめ込まれていた。そこにはカタカナで大きく「シルバーホース」とだけ表示されている。

「エレベーターに乗ったら、まずは名前を呼んでください」

「な、名前?」

「画面に出ているのが名前です」

「あ、これ……シルバーホース?」

 思わず読み上げる。間髪入れずに、

「ハイ」

 と返事があった。

 女性のような子どものような、柔らかくて自然な抑揚もあるけれどどこか無機質な感じのする、とにかく生身の人間ではないと直観させる声だ。

 驚きつつ、要はスマホのAIアシスタントと同じだな、と理解する。ドアノブのないドアよりは馴染みがある。

「それで行き先を言えばいいわけ?」

「そうです。――シルバーホース、ほしこ所長にお会いしたいのですが」

 指示ではなく問いかけだ。一秒も待たずに答えが返った。

「ビーゴ地区、研究室サン、ニイラッシャイマス」

 画面の表示が「B五地区研究室三」に変わった。

「ああ、みち子班長の研究室にいらっしゃるようですね。そこにお願いします」

「カシコマリマシタ」

 直後に身体にかかる重力の変化を覚えて、エレベーターが動いているのだと気づく。音は何も生じない。静かだ。

「へえ、会いたい人を言えば、その人がいるところに連れてってくれるの?」

「その通りです」

「便利だね。でも――なんでわかるの? その人がどこにいるって」

「ここは研究所ですから。所内にいる人については把握されています」

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