第48話

「エレベーターを使いたいときはノックをします」

「え――はい?」

 頭を切り替えて理解に努める。

 ――エレベーターにノック?

「何のために?」

 問うと、おりょうはほんの少し意外そうな顔をした。

「――合図、でしょうか」

「合図? 誰に?」

「――エレベーターにです」

 お互いに不思議そうな顔で一瞬見つめ合う。その間に両開きの戸が開いた。

 中は普通だ。しかし乗り込む前に疑問をぶつける。

「あのこれ、外にボタンがないけど?」

「ボタン? 何のですか?」

「だから、開けたり閉めたり――」

「開けるときはノックです」

「あそっか。でもあの……あれがないね、階数表示」

「階数表示?」

「今どこにいるかっていう。……別の階に停まってたら、呼ぶのに時間かかるじゃない?」

 おりょうは安治の質問を咀嚼する素振りをした。

「――つまりソトのエレベーターは、どの階に停まっているかが表示される設計になっており、呼ぶのに時間がかかる場合がある、ということですね?」

「えーと、そう」

「ここのは……確かに、どこにいるのかわかりませんね。でも多分、表示ができないから表示がないんだと思います」

「表示ができない?」

「乗れるかどうかは、ノックすればわかることですし」

「乗れない場合は? どれくらい待つか予想できないよね」

「……でも、待つことはそんなにありませんから」

 話しても埒が明かないと判断したのか、おりょうはさっさと乗り込んだ。仕方なく安治も続く。

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