第150話

 好きなものと言えば漫画とゲームくらいか。しかしよく考えてみると、それは勉強をしたくないとか将来を考えたくないとか、目の前の課題から逃避するための道具であるような気もする。結果、他人に言えるほどの「好きなもの」は思いつかない。

 ――情けない。

 安治は勝手に落ち込んだ。

「……やりたくないことなら、あるのにな」

 ぼそっと呟く。タナトスはそれにも律儀に反応する。

「やりたくないこと。何?」

「うーん……。仕事?」

 あると言ったわりに、咄嗟には思いつかなかった。とりあえず捻り出した言葉にタナトスがしかめ面をする。

「仕事をすることは生きること。仕事をしないのは人生を放棄すること」

「え……それ、誰に教わったの?」

「みち子やたま子。しばしば言う」

「ああ、言いそう。……研究所の人って、仕事熱心そうだよね。敷地から出ないって言うし」

 そんなに働きたいかなあ……と溜息混じりに溢す。

「仕事のほか、安治は何をしたい?」

「何だろうなあ……タナトスは?」

 考えるのが面倒になったので話題を振り返す。

「タナトスは目下、読書やビデオ鑑賞など。この世界について覚えることがたくさんある」

「そうだよね。見た目は大人、頭脳は子どもって感じだもんね」

「そして安治を観察する」

「やだなあ……俺に見習うところなんてないよ」

 及び腰になった安治にタナトスは平然と答える。

「少なくとも人間である」

「そりゃまあ……」

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