第151話

 そうか、だから選ばれたのか、と安治は納得する。きっと典型的な人間――凡人だからだ。優秀すぎると却って見本にならないのだろう。

 とはいえ、タナトスが自分に似ても困るのでは――と軽く心配になる。

「安治はどんな人?」

 赤ちゃんのような瞳でタナトスが訊いてくる。

 その目は光の加減で色が変わった。瞬間的には水色にも灰色にも金色にも見えるが、おそらくは茶色がかった灰色だ。もしくは灰色がかった茶色。今までに黒っぽい目しか見たことのない安治はついその目に見惚れてしまう。

「え? ――ああ、自己紹介だっけ」

 ――どんな人と言われても。

「今年二二だね。……研究所産……のクローン」

 らしい、と内心で付け加える。タナトスは表情を変えずに首を傾げた。

「人間ではない?」

「どうなんだろう……人間のクローンだとは思うけど……」

 自分のことだが、よくわからない。所長にでも訊いてほしいものだ。

「人間と人間のクローンは違う?」

「知らないよ。同じようなものじゃない?」

 自分がクローンだという自覚はない。もしクローンでなかったなら、何か今と違うのかもしれない。違うのかもしれないが、別の自分になることはできないわけで、違いを実感することはできない。

「安治の嫌いなものは何?」

「え、嫌いなもの? ――実家かな」

 考えるまでもなく口から溢れた答えに自分で驚く。既に実家を出て長いというのに、どれだけ嫌っているのだろう。

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