第343話

「ええ、会いましたよ。でもよく……。彼女って、俺の……?」

 おずおずと問いかける安治に、女性二人は含み笑いをしながら面白そうに言葉を返す。

「俺の?」

 安治は照れくさいのと同時に苛ついた。

「訊いているんですよ。俺の何なんですか? ただの幼馴染み?」

「ただの幼馴染み?」

 またしても復唱してうぷぷと笑い、内緒話をするようにお互いの身体を叩き合う。

 安治は「はあ」と声に出して溜息をついた。

 微妙な関係なのだろうとは予想していたし、これで確信もできた。しかしもっとはっきりしたところが知りたい。

「教えてくださいよ。前付き合ってた……とかなんですか?」

 おりょうと付き合い始めたのは、ここでの記憶が始まる前日だと聞いた。ならばその前に付き合っていた人なのでは。

 そして彼女にちゃんと別れを告げないままおりょうに乗り換えた――昨日からそんな想像が頭を占領して離れない。

 もしそうなら、何かするべきことがあるかもしれない。言い訳でも謝罪でも。

 女性二人は尚も笑いながら、返事はせずに首をもぞもぞと横に振った。どう答えるか迷っているようだ。

「あの子はまあ……幼馴染みよ」

 やっとみち子が言ったのは、それだけだった。

「それはわかってますよ。……それだけですか?」

 笑いを堪えていたたま子がぶふッと吹き出し、また何もなかったように平静を装う。しかし顔が赤い。

「……知ってること教えてよ」

 思わず詰問口調になる。

「知ってることと言われてもな。……特にないな。同い年で仲が良かったということしか」

「じゃあなんで笑ってるの」

「別に笑ってない。……付き合ってはなかったんじゃないか。そういう相手がいるなら、姫との交際話なんて出るはずがないからな」


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