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第342話

 一眠りして翌日、みち子の研究室を訪れたのは昼過ぎのことだった。

 気持ちが落ち着いたところで改めて、冷蔵庫と左手についての一連の報告をする。

 その間に連絡を受けたらしいタナトスとエロスがやって来た。

「安治」

 入ってくるなりタナトスは不満を露わに詰め寄ってくる。一方でエロスは、入り口付近で軽くたま子と挨拶を交わしただけで帰って行った。

「あれ、エロスちゃんは?」

「あいつは、お前がいない間の代わりでタナトスについてたんだ。一人にはしておけないからな」

「ああ、だから」

 タナトスが怒っているのか、と納得する。

「安治、仕事しない」

「ごめんごめん」

 思えば二日半さぼってしまったわけで、その分タナトスのストレスが溜まっているわけだ。

「こら、責めるんじゃないの、タナトス。他に言うことあるでしょ」

 意外にもみち子が叱る素振りで口を挟んだ。言われてタナトスはしゅんとする。心配そうな表情を作り、

「安治、大丈夫?」

 と訊いてきた。

「うん、大丈夫だよ。……心配してくれてありがとう」

 教育の一環だと気づいたので、わざと丁寧な返事をする。

 部屋を出る前に、入り口の脇に立っていたたま子に「クズハちゃんって知ってる?」と何気なく訊いてみた。

 すると思いがけず大きな反応が返ってきた。

「クズハに会ったのか?」

 驚いた様子の声に、聞きつけたみち子もキャスターつきの椅子に座ったまま、急いで滑り寄って来た。手には開けかけの煎餅の袋を持っている。

「クズハに会ったの?」

 その顔と声が笑っている。安治は嫌なものを直感した。

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