第344話

 言われて気づく。そう言えばおりょうとはどういう経緯で付き合うことになったのだろう。部屋に戻ったら訊いてみよう――。

 それよりもたま子とみち子が本当のことを言っているとは思えない。

 問い詰めようとしたところで、一人退屈そうに傍観していたタナトスが、業を煮やして部屋を出て行ってしまった。大股にエレベーターに向かう。

「ちょ、ちょっと待ってよ」

 慌てて後を追う。非の打ちどころのない端正な歩き姿から怒りのオーラが溢れ出ている。きっと、いつまでも仕事をしないと思われたのだろう。

 仕方ない、業務時間中だ。今はタナトスの世話に集中しなければ――。


 タナトスが向かったのは例のごとく図書室だった。

 受付の脇を通ってドリンクバーに立ち寄る。ふと受付カウンターに雑誌のようなものが平積みになっているのが目に入った。同じものが三山も並んでいる。

「あ、あった」

 少し遅れて入って来た若い女性が、嬉しそうな声を上げて一冊手に取った。それが目当てだったらしく、掴むなり中身も見ずに踵を返す。

 ずいぶんと人気があるらしい。

 気になって視線を向けていると、気づいたエンケパロスが愛想良く勧めてきた。

「最新号です。どうぞお持ちください」

 ――お持ちください?

 借りるのではなくてもらえるのだろうか。何の雑誌だかわからないので「はあ」とだけ返事をして受け取る。

 表紙を見てぎょっとした。派手な花魁の格好をした美女が赤い絨毯にしどけなく座り、大きく開いた胸元と白い太股を見せつけるようなポーズを取っていたのだ。

 咄嗟にタナトスの目に入らないよう背後に隠す。

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