第115話

「クラだ」

 そう聞こえた。不穏な雰囲気を漂わせた男の声だった。続いてドアを乱暴に叩く音がし、開かないとわかると何らかの武器で壊そうとしているような音がした。

「え、え?」

 恐怖に思わず声が出る。たま子が腕を引いた。口元に人差し指を立てている。声を出すなということか。

 二人は脱出口を潜った。その扉が閉まり切る前にクラの戸が開き、大勢が入ってくる気配がした。

 クラに残った房江が叫ぶ。

「やめてください。出てって! キャー!」

 最後の絶叫は脱出口の扉を通してもよく聞こえた。進むべきか戻るべきか、思わず足を止めた安治の手首をたま子が強く握る。

「心配するな、あれは警報音だ。わざと叫んで周囲に危険を知らせてるんだ」

「…………」

 安治は頷き、房江はロボットだから、と納得しようとした。その一方で、女の子を一人残してきてしまったという罪悪感に後ろ髪を引かれる。

 隠し通路は狭く、長身の二人は頭を屈めて進んだ。明かりもところどころにしかない。どこに続いているのか、どこまであるのか、見通しがつかない。

「これ、外に出られるの?」

「いや――無理だろうな。どこか適当なところで……」

 前を行くたま子は片手を壁に当てながら慎重に進んでいる。他の部屋に続く扉を探しているのだろう。

 姿は見えないが、前後から囁き声が響いて聞こえてくる。きっと他の部屋から脱出してきた人たちだ。たま子が告げる。

「安心しろ、今回は脱出口には追っ手がかからない。その辺の設定は事前に告知されるんだ。開催日は当日のお楽しみだけどな」

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