第116話

「今回はって……追っ手がかかったときはどうするの?」

 天井に頭をぶつけつつ、へっぴり腰で後を追いながら訊く。

「まあ、戦うか、味方に助けられるか、やられるかだな」

「戦うって。みんな戦えるわけ? 俺無理だよ」

「わかってるって。みんな戦えないさ。少しは抵抗するかもだけどな。有事の際は本社の黒服組が駆けつけてくる。ソトで言う警察とか自衛隊みたいな奴らだ。ボクらにとっては避難訓練だけど、あいつらにとっては防衛訓練だ」

「ああ、そういう人たちがいるんだ――」

 言った瞬間、壁のすぐ向こうで爆発音が響いた。振動と恐怖で安治は反対側の壁に打ちつけられる。

「うわっ」

「落ち着け」

 たま子は咄嗟に安治の身体を引き寄せ、口を手で押さえた。興奮して叫ばれるとまずいと思ったのだろう。

 爆発音に続いて狂ったような笑い声、さらに軽い爆発が連続で起きた。

 たま子はくすっと笑う。

「ドクター森本の声だ。ここぞとばかりにやってんな」

 口を押さえられて安治は声を出せない。それは何者なのかと目で問いかける。

「火薬系の武器を研究しているドクターだ。リアルで使える場面を待ってたんだろ。室内で使えるなんて滅多にないからな」

 ――後片づけが大変そうだね。

 胸中で返す。実のところ、爆発音の衝撃で鼓動はうるさいほどに速まっている。それでも思考が冷静でいられるのは、ひとえにたま子が落ち着いているからだ。

「そんなドクター、けっこういるからな。黒服組からしたらどれが敵かわからん。白衣を着てなきゃ間違われる」

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