第192話
男はハエでも払う素振りで身体と手を動かしていた。じきに迷惑そうな顔になり、琥太朗を睨み返す。
琥太朗は構えたまま動かない。
二人が何をしているのか、安治にはわからなかった。男のほうに注目すると、身体の周りを大きなハエのようなものが飛んでいる。形は見えないが、不規則な動きが虫のようだ。ただし動きが大きく速い。それも緩急をつけて、スピードを速めたり緩めたりして飛び回っている。数は三つか四つあるだろうか。
男は刀でそれを払う。いや、払おうとした。一瞬早く飛翔体のほうが避ける。その間に別の個体が男の腰を狙う。刀の柄でガードする。しかしその個体も柄を避ける動きをして、さらに男の背後に回り込もうとする。
飛翔体は不規則に動きつつも、ターゲットを囲むように四方から狙いをつけているらしかった。男が身体を回転させても必ずどれかが死角に入り込む。フェイントとなる動きが多く、空振りを誘っては隙を突くように本攻撃が来る。
――嫌な武器だな。
思うのと同時に、琥太朗の無邪気な声が思い出された。
――アイギスっていうんだけど。
これが、研究に熱中していたというものなのだろうか?
男が仰け反った。顔を狙って飛んできたのを間一髪で避けたようだ。再び琥太朗を睨んだときには頬にかすり傷ができていた。
形の良い眉が顰められる。舌打ちが聞こえた気がした。次の瞬間、男はいなくなった。安治の目には、隣接する両親の寝室に向かって飛び去る影だけが見えた。
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