第191話
男が離れた。安治はその場に崩れ落ちる。衝撃に身体が震え、力が入らない。
遅れて熱さが強烈な痛みに変わった。息が詰まる。
手を当てると温かい液体が吹き出ているのを感じた。目を向けなくてもわかる。血だ。
白い男は先ほどと同じように無感情なまま安治を見下ろしていた。その手には鮮血が滴る日本刀があった。
――殺される。
今さらながら恐怖に駆られた。一度は諦めたのに、逃げなくてはと本能が急き立てる。
二本足で立つのは難しいくらいに震えていた。ならば這って、と思う手が自分の血で滑る。前に進めない。
廊下を戻ろうと方向転換を図る。同時に追って来られるのが怖くて、目は男から離せない。
ふと灰色の瞳が安治から逸れた。刀の手が素早く動いて何かを振り払う。カチン、と金属質な音が響いた。
続いてカチン、カチン、と音がした。何かが男に向けて投げつけられている。
――何だ?
それは誰だという問いとも同一だった。何者かが男に攻撃をしている。
――まさか、澄子?
急激に冷静さが戻った。
生きているのか。ならば逃げるのが先だ。仕返しなどしている場合ではない。
安治は血塗れの手で慌てて障子を開けた。
そこにあったのは姉の姿ではなかった。怒りの形相で男に対峙しているのは小さな少年――琥太朗だった。
「やめろ。逃げろ」
声が出た。人様の子を、それも自分より年下の子を巻き込むわけにはいかない――。しかし勝ち気な琥太朗は、聞こえない様子で睨み続けている。
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