第205話

 特にたま子は――生みの親がマチからの脱出を試みて殺されている。表向き、たま子への風当たりは強くなかったが、接する大人の全員が、彼女に反乱分子としての片鱗がないかを注視しているのは明らかだった。

 聞くともなしに周囲の会話に耳を傾ける。

「こんなに大きな車があったんだね。しかも何台も」

「そりゃそうだろ。でなきゃどうやって物資を運んで来るって言うんだ」

「運んで来るって? どこから?」

「ソトに決まってるだろ。知らないのか。マチは自給自足なんてしてないんだぞ」

「本当なの、それ? じゃあこの車はいつもソトと行き来してるってこと?」

「なら安心だね。道はわかってるわけだ」

「だけど一体どこに……」

 ――どこに。

 それは未来に対する問いかけだ。安治の頭の中ではその問いと交差するように、過去に対する問いも浮かんでは消えていた。

 誰が家族を殺したのか。何のために。

 直接的な意味で殺したのは、あの白い男かもしれない。しかしマチ中に火を点けたのは、一人の仕業ではないだろう。

 おそらくあの男は何かの組織の一員だ。琥太朗の家の前で見たカンカン帽の男もきっと。

 ――あいつらは一体……。

 マチの中の人間なのか? それとも――ソトから来た?

 考えながら視線は、見るともなしに正面に座る人の肩を捉えていた。ナイロン素材の青いジャケット。肉づきの良さそうな肩は、ふと見れば、項垂れた中年男性のものだった。

 隣に琥太朗と同じくらいの女の子がいる。その子はずっとべそをかいていて、反対側に座る母親らしき女性に宥められていた。見た感じ、親子連れだろう。

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