第204話

 思ったほど広くはないコンテナ内に座った状態で寿司詰めになると、後方の扉が閉じた。続いて発車の振動を感じる。壁には簡易的な照明が取りつけられており、お互いの顔が見えるていどには明るい。圧迫されてはいないものの隣人と容易に身体が触れあう距離感なので、快適とは言えない。長時間になれば苦痛だろう。

 動き出してからやっと、疑問に思った。

「……どこに行くんだろ?」

 避難という言葉しか頭になかった。燃やされたのは主にマチの中心部である住宅密集地のようだから、周囲を囲む山間部にでも避難するものと思っていた。しかしそのために、わざわざコンテナを使って運ぶだろうか。

 他の人たちもひそひそと話し合っているのがわかった。

「……ソトに行くらしいよ」

 ところどころからそんな声が聞こえる。

 あり得ない話だと安治は思う。マチの住人がソトに――日本に行くなど。

 かといってソト以外に思いつく場所もなかった。マチは狭い。一度に全員が避難できる場所など、あるとは思えない。

 シャツの入ったバッグを抱いて俯いたきりの琥太朗ごしに年長のたま子を見る。

「本当に――ソトに行くんだと思う?」

 訊かれたほうも緊張したような、複雑な表情で頭を斜めに振るしかなかった。

 少しの沈黙の後、たま子はぼそっと呟いた。

「本当なら、嬉しいけどな」

 安治は聞こえない振りをした。思わず頷いてしまわないよう気をつけながら、内心では強く首肯する。

 ソトに行ってみたい――。

 それはマチに生まれた人なら一度は思うことであり、同時に口にしてはいけない言葉だった。

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