第15話
一般的な病室には見えない。だからここは私設の療養所……いや、親戚の家なのではないか。母方の親戚に医療従事者が何人もいるのを思い出す。
もしそれなら経緯も予想がつく。事故に遭ったか自傷したかで病院に運ばれ、親に連絡が行った。親は個人的に看護を引き受けてくれる親戚を見つけて息子を預けた。肝心の事件を覚えていないのは、心身のショックが大きいから……。
――ありそう。
思わず一人で納得する。
正直なところ、心は疲れていた。ずっと。母親への抗議かつ嫌がらせとして死んでやろうか、と思った回数は思春期以来数え切れない。ここ数日はそれに生活への不安も重なって、ほとんど投げ遣りな気分だった。
左手首に目を遣る。しかし傷はない。見える範囲に包帯などもなく、どこかに怪我をしている感覚もなかった。
「どうかされましたか?」
柔らかな口調で女性が訊く。囁き声に感じるのは、声質がハスキーでボリュームが小さいからだろう。
「あの」
と目線を合わせるが、後が続かない。何を言えばいいのか。それ以前に、パジャマ姿で美人と話すのに気恥ずかしさを覚えた。相手がナースなら、照れただけ滑稽に思われるだけだろうが。
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